出津京子さん 

アーティスト(絵画)

子ども:幼児、小学生低学年(インタビュー時:2021年12月)

東京在住

 

 

 ー自身の作品について 

大学を卒業した後は、大学生の時と比べると色々な人と出会う機会が減り、次第に街で見かけた人やカフェにいた人など、知らない人たちが絵の題材になっていきました。また、出産前は身近な人をモデルに描いていて、出産後はTwitterで見かけた話や家族のことなど、身の回りで起こった出来事を描くようになりました。なので、子どもがいることは作品の内容にも出ているし、周囲にも言っています。 

1人目が生まれてからは制作を続けることが難しく、1年くらいはブランクがありました。ですが、主に家族としか会わない状況で、逆に視野が開けていくような部分もあり、自分のことだけではなく本や歴史からも主題を得るようになりました。学生の時は大きい絵を描くことが好きでしたが、今は子どもをみながらリビングで描いているので絵のサイズが小さくなるなど、物理的な変化もあります。子育て中に直面する様々な制限に対応しなくてはいけないので、「大きい絵を書かなければ」という考えから自由になった部分もあり、それは凝り固まっている自分や強いこだわりから抜け出すことができたとても良い変化でした。

自宅の制作場所の様子
絵の具が床に付かないように敷いたマットの上で。

ー作品と子育ての両立について

 

生活に制作を合わせていくことが大事だと感じていて、両立はできると思います。私は頭の中でアイデアや構図を考えるので、日中、子どもをみながら構想し、夜に描いています。私は描くのも速いので、その日に考えたこと、見たことなどを一晩で描きあげたりして制作を続けています。「大きい作品じゃないといけない」というマッチョな考え方に捉われていた時は「なぜできないのか」にぶつかると、そこに凝り固まって固執している自分に怒りが溜まっていくこともありました。自分の中のマッチョだったりするところは、社会における既存の基準や固定概念から影響されたものだったのかもしれないと気付かされました。なので、制作がうまく「できない時間」は、これらの抑圧に気づくことができる大切な機会だったのだと実感しています。

 

坂本:制作方法が決まっていたり、中堅作家などは作品や制作スタイルを変えることが難しく、子育てをする上で制作に行き詰まることもあると思います。例えばマテリアルに危険なものを使う作家さんは、子どもを仕事場に連れて行くことが難しく、制作時間の確保が問題になると思います。その点出津さんは自宅を制作場所にし、育児と制作の両立にフレキシブルに対応することで、逆にご自身の作品制作に関してもポジティブな気づきがあったんですね。ちなみに、自宅での制作でお子さんにとって危険な場面はありますか? 

 

出津:そうですね、今はリビングの壁が制作場所になっています。これまではアクシデントもありました。子どもがジンクホワイトを飲んでしまって。やはり絵画のための素材など、子どもにとっては危険な物もあるので、子どもが触ろうとする時は毎回怒らないといけません。そういう意味では、制作することで子どもに負荷をかけていると思うことはあります。

 

本間:特に小さい子どもは何でも口に入れてしまったりと、部屋作りは子どもの年齢によっても違いますよね。 

 

出津:例えば作家の中谷ミチコさんは樹脂を使って作品を作るのですが、材料が有毒な場合もありますし、子どもがいたずらする可能性を考えると、どうやって制作しているんだろうと思います。こういった悩みは子どもが成長するとともに、時間が解決することも多いと思いますが。 

自宅の制作場所でお子さんが遊んでいる様子
ピクニック。

本間:出津さんは公園で子どもを遊ばせている時などに絵の構図を考えると仰っていましたが、私自身は子どもの様子を見ながら他のこと、ましてや作品について考える余裕がないです。特に1歳になる前は何を食べさせていいか、などその都度調べることが多かったので、他のことに頭が回らないというか。 

 

出津:私の子どももアレルギーがあるので毎回チェックしたりと手間がかかります。でも、開き直ってからは、それも描ける、十分作品になり得ると思いました。取るに足らないトピックかもしれませんが、保存料の表示などを作品にしてみました。 

 

坂本:日々の時間に制限があるので、制作を切り上げるタイミングが早くなるなどの変化もあると思います。実際にどうやりくりして、子育てと制作を行っているのかという声はなかなか聞くことができない。大学で子どもがいる先生もそういう話はしていなかったです。 

 

出津:そうですね、場所によって違いますが、「子どもがいるのに(制作していて)すごいね。」とよく言われることに違和感があります。男中心のホモソーシャルなアートの場に最近気づく機会もありました。男側は「稼がないと」と強く思わされていますよね。私は働いていなくて、子どもが幼稚園に行っている間に少し時間ができたりもしますが、これに収入を得る仕事が追加されると制作は難しいと思います。あと、パートナーとの関係性も子育てと制作の両立に関わってくると思います。 

お子さんの後ろ姿とキャンパス
息子1か2歳、キャンバス張りのアシスタント。

坂本:子どもをみる時間と制作とのバランスは簡単には取れないですね。仕事を見つけて子どもを保育園に入れ、仕事の合間に制作時間を確保することもできると思いますが、もうちょっと子どもを自分でみたいと思う人には悩ましい選択だと思います。 

 

出津:子育てだけではなく、生活と美術の隔たりも感じます。美術の世界だけで閉じて考え、作品や制作の領域を生活の要素に近づけたくないという意識を持つ人もいるので。ただ周りにいるアーティストも年を経て、子育てを経験した人も増えたので、制作と生活のあり方みたいなことにも意外と興味を持ってくれる人が実際にいることに気がつきました。 

出津京子 IDETSU Kyoko Website https://www.kyokoidetsu.com/